玉川温泉の大浴場突き当たり左には、あお向けに寝て後頭部を温泉に浸す入浴法、頭浸浴があります。
私のようにしょっちゅう温泉に出かけている人間でも、頭浸浴のような入浴法を利用している湯治場はあまり記憶にありません。
ですから、頭浸浴は玉川温泉独特の入浴法といって差し支えないと思います。
仰向けに寝て天井を見上げながら、体の力を抜きリラックスした状態でこの頭浸浴を行えば、たちまちのうちに頭の中に桃源郷が出現するかのごとく、脳が覚醒して爽やかな気分が楽しめます。
このため、頭浸浴はイライラやストレスなどの精神的な不快状態を緩和してくれる効果がきわめて高いとされており、これらの精神的不快感からくる自律神経の失調などにも大いに役立ちます。
ただし、最初のうちは頭浸浴をしていると、あたかもなかなか眠りにつくことができない夜のように、自分の病気のことや仕事のこと、家族のことなどが走馬灯のように脳裏に浮かんできます。
ここで、これらの思いを頭の中にとどめてしまい、あれこれと思い悩むことはせっかくの頭浸浴の効果やそれに割いている時間を無駄にしてしまう結果になりますから、浮かんでくる想念は流水の如く受け流してしまうことが大切です。
でも、一点に思いを集中させて生じたストレスやイライラは、さらに突き詰めて考えていくほどに深く沈降していきます。
私を含め、往々にして私たち現代人は堪え性がなくせかせかしていますから、「なにもしないでじっとしていること」が全く不得意です、「なにも考えないでただ仰向けになっていればいい」のですが、頭浸浴を行ないながら「なにも考えない」ことは慣れるまで結構時間がかかります。
ですから、ここはもう、寝そべって座禅をしているんだと自分に言い聞かせて、ただひたすら只管打寝することです。
また、この頭浸浴、脳に腫瘍のある方や自動車事故などによる脳障害のリハビリなどにも優れた効能があるとされています。
がんの宣告を受けるなど深刻な病をお持ちの方がここ玉川温泉で湯治を行う場合は、長い間の療養生活でどうしても精神的な不安に陥りがちです。
私の知り合いのある「玉川温泉博士」によると、頭浸浴を行えばラジウムが間脳を刺激してこのような不安な精神状態を取り除いてくれるので、徐々に病に立ち向かうおうとする気概が生まれてくるのだそうです。